クローズアップ・麻酔



至適吸入麻酔の濃度の設定
文責:藤田 義人(2010年06月10日)

 患者確認のための前投薬の廃止や鏡視下手術の増加などによる笑気の使用の減少など、比較的浅い麻酔での維持が主流になる状況下では、術中覚醒の危険がつねに伴います。
 BISなどのモニタリングが可能であれば比較的安心ですが、いつもモニタリングできるとはかぎらない。
 かといって、麻酔濃度が深くなりすぎてなかなかさめないとかっこわるいし...

 今回は、至適な吸入麻酔濃度について考えてみました。私の私見で恐縮ですが...

 そもそも、不十分な鎮痛や不十分な筋弛緩による刺激は覚醒の危険を増大させる可能性がありますが、では、十分な鎮痛と筋弛緩が得られているという状態ができているとして、最小限必要となる吸入麻酔濃度はどれくらいなのでしょうか?

 手前味噌で恐縮ですが、その必要最小限の吸入麻酔濃度を検討するため、硬膜外麻酔を併用した全身麻酔で検討を行ってみました。

 腹部の手術30例を対象としました。硬膜外麻酔による十分な鎮痛が得られているという条件を、執刀後に血圧が10%以上上昇しなかったものとしました。そのもとで、BISの値を50をターゲットとし、40-60になるよう吸入麻酔濃度を調節します。そのときの呼気ガスの吸入麻酔濃度をモニタリング、記録します。筋弛緩は、筋弛緩モニターを用い、十分筋弛緩を得られていることを確認しておきます。笑気は使用していません。

 60歳以上と、以下でわけて検討しました。以下が結果です。わかりにくくて申し訳ないのですが、縦軸は、手術時間に対する、その麻酔濃度で維持した時間の割合です。

 30歳から60歳までの方ですと、1−2%で維持したのが手術時間全体の9割以上になり、それが60歳から70歳ですと、0.6−1.5%とやや低くなります。

 また一番高い吸入麻酔濃度が必要なのは最初の執刀時です。(硬膜外麻酔がしっかり効いているといえどもやはりここが一番高い吸入麻酔濃度がいります)
 術後のインタビューを行いましたが、術中の記憶はありませんでした。

 これらのことから、至適な吸入麻酔濃度維持の方法としては、

 導入後、セボフルランを2-3%ぐらいに設定し、呼気ガスのモニタリングで2%を超えるか、それ近くにもっていき執刀時を迎える。
 その後は、吸入麻酔濃度を低下させ、1-1.5%程度の維持とする。もちろん、術中の手術をみながら、新たな皮膚切開の追加など、侵襲が強いと考えられる場合には適宜濃度の調整は必要です。手術終了20-30分ほど前と予想されるときから徐々に低下させ(0.8-1.2%)、手術終了時を、1.0%以下になっている状態で迎える(0.5-0.8%)。

 以上のように私は麻酔を維持しています。ただ、これは充分に鎮痛は得られているという想定の状況なので、いかに充分の鎮痛を得るか、ということはまた別の問題となります。

 静脈麻酔と違って吸入麻酔は効果に個人差が少ないと思いますが、もちろんなかには2%ぐらいの濃度があっても覚醒していたという報告例もあります。
 私自身の経験でも20年ほど麻酔をかけていますが、1例だけあります。既往に以前の麻酔で術中の記憶があるとおっしゃった患者様の麻酔で、注意して麻酔を行いましたが、2%の濃度でもBIS値が異常に高く、ほかに静脈麻酔を何種類か使用してもBISの値を低く維持できませんでした。尋常でない鎮静、鎮痛薬を使用したので、覚醒遅延を最初心配しましたが、全く問題なくすぐに覚醒しました。今度は術中覚醒が心配でしたが、術後回診では、運良く記憶は無いとのことでした(神様ありがとう)。

 油断大敵です。




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